『街の肉屋』 と 『老舗』 2つの顔を持つ.          〜人形町今半の取り組み〜

赤を基調とした和風の店舗
 人形町今半(日本橋支部)は名前の通り、様々な老舗が建ち並ぶ日本橋人形町の真ん中にある。店構えも、純日本風の建物で風格を感じる。また、一般的なイメージが『高級すき焼き店』と一段格が違う。
 しかし、取材をしていくうちに、今半の人形町での役割が想像と違うことが明らかに。そのことと、これからの取り組みなどについて取材した。
高岡慎一郎 社長 金子志郎 取締役部長 中村正男 マネージャー
 いわゆる牛鍋屋『今半』のルーツは明治28年に開業した『浅草今半』である。人形町の店は、その日本橋支店として昭和27年に開いた。その時点で『牛鍋屋』は『すき焼き屋』に。4年後の31年に独立し『人形町今半』となった。今の会長の高岡陞氏が創業者である。




●飲食客の土産が
 小売の始まり


店頭へ出て商品説明をする
中村マネージャー
 はじめは肉の小売はしておらず、飲食業のみの営業だった。しかし、「せっかく肉を扱っているのだから、肉も売ってみよう」と、小売業に進出した。当初の小売のスペースは今と違い狭かった。すき焼きの客へのお土産用の小売としての位置付けだったため、広さも『8尺1台』と小さな肉屋並みだ。小売店舗2割、飲食スペース8割といった具合である。
 今のような小売形態になったのは25年前。1回目の改装を行い、いくぶん広い店舗となってからである。また、本格的な改装が17年前にあり、今の店舗となった。
 肉の小売店舗の支店は都内4店と、船橋、柏、川口、横浜の計8カ所。飲食店は7店舗。小売と飲食店が同じ場所にあるのは人形町のみ。あとは全て別々に存在する。飲食店はレストラン街に、小売はデパートの食料品売り場にテナントとして入っているからである。


●黒毛和牛のメスにこだわる訳

扱うのは黒毛和牛のメスのみ
 人形町今半は品物について自ら厳しく制約をつけている。「当店は輸入牛は扱いません。A5、A4のトップクラスだけを販売するため、黒毛和牛のメスに限定しています。味、脂質、その他含めメスが勝っているからです」
 原産地も厳選している。山形、福島の東北地方や、関西の滋賀、三重、近郊だと静岡など。「A5、A4の黒毛和牛のメスであるとの情報を得ると、当店の仕入れの担当が出向き、ウチのレベルに合うものかを判断、購入する」のである。つまり、仕入れ先は固定していない。良いものを常に捜し求めている。
 実は、昔は近江牛専門だった。BSE問題浮上時、近江牛が高騰したことから変化が起こった。「割に合わなくなったことと、近江牛だからいい肉なのではなく、生産者が良いえさを使い、真剣に手塩にかけて育てた牛ならば、どこの牛でもよいではないか」との結論に達したのだ。
現在の仕入れ形態に移行したのは2年前からである。結果的に、BSE問題は今半にとって良い結果をもたらした。
 今半のもう一つの特長は、全国へ通信販売も行っていることだ。クロネコヤマトを利用した宅配方式で、北海道から九州まで注文が来ている。デパートでの宅配受付からはじまり、もう20年の実績がある。


人気の豚肉TOKYO X
●売り切れる程の人気TOKYO X

 豚肉はTOKYO X、埼玉県産の黒豚、チェリーポークの3種類。TOKYO Xは別格で、あと2種類は同価格帯で販売している。ただし、店頭では『黒豚』という表示をしていない。これも、例の偽装表示騒動がきっかけである。
 3銘柄を選択したのは「黒豚と言えば鹿児島の純粋黒豚で、最初はそれを仕入れていた。その後、埼玉県の入間に良いものがあると聞いて、入れ替えた。チェリーポークは生産者が良く見え、カット工場の経営者が真面目で、誠心誠意、我々と同じ考えで行動してくれるので決めた」と説明。店頭では『今半の豚肉』として販売している。


●平日は近所 休日は遠方の客

 客層について、記者の勝手な想像から「上流階級の消費者が多いのでは」と聞いてみたところ、「決してそのような人だけではない。店頭で見れば、すぐ分かるが、平日は、ごく普通のご家庭のお客が多い。エプロンをかけて自転車に乗って来られる。周辺住人の客が多く、特に人形町本店はその傾向が強い」という答えが返ってきた。
 とはいえ、遠方からの客もおり、土日に多い。その時は、店頭に黒塗りの車がずらりとならぶ。地元の肉屋を通り越して、わざわざ人形町まで足を運んでくれるありがたいお客様である。


●今後の期待は肉が基調の惣菜

今後期待される今半の惣菜
 今後の新しい取り組みについて、「これまでは、肉中心で勝負してきたが、これからは総菜にも力を入れていきたい。他店と違い素材(肉)が明確なのが強み。これこれの肉で作ったコロッケ、メンチといったように特色を出せる。できあがりまで少々待ってもらうが、出来立てのあつあつの評判は非常に良い。家庭で油を扱うのを嫌う傾向も追い風になっている」と分析している。
 これからの組合に対しての要望は、「もっと組合員のレベルを上げるような勉強会を開いてほしい」という。「日本の肉屋はどのような教育を受けて、これくらいのレベルですよ、と示せるようにすべきだ。結果、肉屋が憧れの仕事となって欲しい」
 誇り高き、真摯な経営者である。


    〔2003年(平成15年)12月15日号「東京食肉新報」掲載〕
 

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