労を惜しまず夢を持て          〜長谷直商店の取り組み〜

スーパー内の長谷直商店
 東大和支部の長谷直商店は、住宅街のまっただ中にある。一見、お店があるように見えない場所に、同店が入っているショッピングセンターがある。立地が示す通り、客のほとんどが近所の主婦層である。閑静な住宅街の店にもかかわらず、昼過ぎでも客足は途切れない。店主の松沢孝氏に、肉に対する思いと、自慢の手作りソーセージに関して聞いてみた。
 松沢氏は中学までは新潟に在住。卒業後、集団就職で上京し、精肉店に勤めることになる。独立は25年前。
肉に関しては庄内産の豚肉と、鶏肉は岩手からの雄山鶏。牛肉は三重牛にこだわっている。それに、手作りソーセージ。最近はソーセージの売り上げが半分を超えた。
 今の店の付近には西武園とライオンズ球場があり、行楽地色が濃い場所柄だ。しかし、店舗の周辺は一般住宅地に囲まれている。
 取材に伺った午後2時は、一般的に客が途切れる時間であるが、ここはひっきりなしに、お客様が訪れる。その一因に、ある努力が隠されている。


●客の要望が手作りを生み出す

手作りウィンナー
 長谷直の特色は何と言っても、手作りのハム・ソーセージである。そもそものきっかけはこうだ。以前、店に某社の生ウィンナーを置いていて、客受けがよかった。しかし、その生産が中止になってしまった。生ウィンナーに対する客の要望があり、またちょうどそのころ、手作りブームで、組合でも奨励していたことから、ある業者を通じて手作りを始めることに。今から25年前のことである。
 多くの組合員と同様、はじめはうまく行かず、軌道に乗せるまでは時間がかかった。悩んでいるころ、ソーセージ作りの先輩を紹介してもらい、その時食べさせてもらったフランクが非常にうまかったのである。その味に自分も挑戦したいと思った。
 当時はまだ、ドイツから機械を輸入する前で、なかなか思うような商品が出来なかった。そこで、フードカッターの刃だけを取り替えたもので実験したところ、モーターが煙を吐くというハプニングを起こし、やはり、輸入しなければという結論になった。
 ドイツから取り寄せたカッターは、13リッターカッター。ある程度、商品を見ながら調節しなければ良い物は出来ないが、性能は良い。機械と対話しながら製品を作るというタイプである。このコツを覚えるまでが大変だった。


●人との出会いが道を切り開く

照れる松沢氏
 社長が常に思っていることは「人間が考えることは現実化する。考えることによって人の出会いが生まれ、その出会いを大事にしていくと、必ず自分の理想が実現される」である。中でも人との出会いは一番大事にしているという。友人の助言や、仕事上の付き合いなど。手作りソーセージはその賜物である。
 「自分は肉屋であるがいまだに肉屋としての自信がもてない。だから常に人の話を聞いて、今やっていることが、正しいかどうか検証している」


●一時は自信喪失 スモークがけが転機

 25年前、当時の店の力だけでは客を引く自信をなくしていた。自分は総菜へ進むか、ソーセージに進むか迷いもした。
 そのころは店員も少なく総菜をやるには肉以外の仕入もしなければならず、これ以上店員が少なくなった場合は出来ないと思った。だが、手作りウィンナーなら肉屋なので肉の仕入れさえすれば、あとは自分が頑張ることで乗り切れると思ったのである。
 それでも、1度はウィンナー作りをやめようと思ったことがある。生ウィンナーは非常に売れていたが、製法に関してうまくいかなくなったからだ。ちょうどその時、晴海の産業祭へ出かけた。そこで出会った人に、「スモークをかけてみれば」とアドバイスを受け、実践し、試食してもらったところ感想は、「美味しい」。それでもう一度やろうと思い直した。まさに分岐点。これもまた「人との出会い」である。


●儲けを追うより夢を追え

長谷直商店はこの中に
 いけないと思うのは、儲けることのみ考えることだという。他の業者が「売れる方法があるだろうから教えてくれ」と来るので「それなら、1.2時間残業して教えるよ」というと「それはしたくない」。それなら、やめた方がいいと思っている。労を惜しんではいけない。商売とは夢を同時に追うことだ。「金儲けだけを追っていては、商売は続けられない」と言う。ただし、店を大きくするか、夢を追い続けるかは個々で違うとも理解している。
 皆、サラリーマン化し、これだけ働いて、これだけの給料という考え方をする人が多すぎる。
 現在のショッピングセンターのように、八百屋、魚屋、肉屋それぞれやる気のあるものがそろえば、大手に勝てるとはいわないが、共存共栄できると確信している。このような不況の時こそ、色々なことが出来るチャンスとも思っている。「こんなおもしろい時代はない」と。
人が前向きか、そうでないかは投資の面でも見ることが出来るという。「自分はあとこれだけしかやれないから投資は出来ない」では、後ろ向きだ。自分が投資したのは「息子が後を継いでくれるから」という見定めがあったからである。
 息子さんには、継いでくれとは一言もいったことはなく、自分から進んでこの道に入ったそうだ。その時、息子が入ったからには考え方も変えなければならないと思ったという。現在、所沢に息子さんに任せてある店がある。この店は、わざわざ遠方から来る客も来るほどの人気である。

●固定観念を捨て肉屋の有様を探る

 この記事に関しても注文をいただいた。
 「過去の自慢話を載せても仕方がない。この記事を見てくれる、これからを背負う2代目3代目が参考となる記事にして欲しい。えてして『肉とはこういうものだ』という考え方を持ちすぎるものだが、自分は客の意見を聞きながら肉屋の有り様を探り続けてきている。これが私の言い続けている『自信がない』という言葉に表れているのだ」。
 謙虚さの中に前向きな姿勢と、後継者への気配りが見える、心豊かな店主である。


    〔2004年(平成16年)1月15日号「東京食肉新報」掲載〕

ページ先頭に戻る