温故知新
   ふるきをたずねて あたらしきをしる   〜肉のさいとうの取り組み〜

卸の開拓

 肉のさいとう(本所支部)は昭和26年、先代の父・秀市さんが創業。
 「新潟の百姓の出で昔の口減らしで上京、戦争も経験しながら、36歳で肉屋を開店。大正4年生まれの70歳で亡くなるまでがんばった。
 だから、自分が生きてる間には店をなくすわけにはいかない。親不孝になってしまう」
 2代目・秀雄さんは大学を出て、中央区の斉藤畜産で3年間お肉の修行。25歳で結婚と同時に店を手伝い始めた。しかし、父の仕事には手を出さなかった。外へ営業に出た。最盛期には小岩から、早稲田・江古田・尾久までがお得意に。ところが数年して、父が亡くなり、今は日本橋・御茶ノ水、錦糸町と近辺だけになった。
 「店を立ち上げる苦労は知らない。恵まれた」

手作りチラシ

 店は母のしずいさん、やはり新潟の出身の75歳。姉の美津子さん。奥さんの順子さんと4人で。女性陣は揚げ物の担当だ。
 「惣菜はフライだけ。弁当はやらない」。
 手作りのチラシを配っている。
 「パソコンと安いカラーコピー機で作る。手書きもあった方が暖かい」
 店の壁に様々な表情のキャラクターが飾ってある。
 「個人店主はなんでもやらないといけない」













朝4時起床

 「肉の方はひとり」
 卸が7割。主に中華料理店を数十軒回る。
 店主の朝は早い。4時起床。4時半にシャッターを開けて1回目の配達、店の前に置いたり、預かった鍵を使う。6時朝食。2回目の配達に出て、9時に戻り、ウインドー作りとお店。昼を食べて3回目の配達。3時に戻り、夕方のお店に立ち、7時閉店。その後、注文取りと経理。
 「自分の時間はない。本当はこの取材も迷惑」
 子供は大学1年生の男の子がふたり。
 「どうせ卒業したら…と思って自分も自由にしていたから、手伝わせていない」

オープンキッチン

 店はオープンにしているから、お客様が勝手に中に入って来る。
 「脂だから手が汚れるよ、と言っても、かばんさえ置いてしまう」
 ウインドーは品数を豊富にして、どんと出して見せて、お客様の注文通りに切って、揚げてあげる。スーパーとは違う、切りたて、揚げたてを出せる専門店の良さを発揮する。
 今の人は何グラムがわからない。例えばカレー4人前に使う量がわからない。その相談に乗る。
 「新しい料理も知っておくと、知識を提供できる。自分では作れないけれど……」
 日々研究を怠らない。

山形牛専門店

舟に乗ったお刺身

 以前は肥後牛を扱っていたが、ことしから同じ本所支部の糾楽久から山形牛を専門にした。
 土曜日を安売りの日にしている。
 和牛は値段が高くなるから敬遠されるかと思うと、今は若い人でも口がこえていて「食べたい」と言って買っていく。
 魚のお刺身のように工夫をしている。
 「キョウギを半分に折って舟にして盛り合わせる。子供の折り紙が役に立つ」
 手をかければいいものになる。豚トロにもこだわる。
 「きれいに掃除して観音開きにして……塩で焼くとおいしい」
 豚の切り落としも刺身のようだ。
 「置いてさえあれば売れる時代から、作っても売れない時代になった」
 なにを作ればいいか、試行錯誤が続く。

大江戸線の開通

豚トロ 豚コマ

 地下鉄「森下駅」とJR両国駅のちょうど真ん中の清澄通りに面してお店はある。 以前はJRだけだったが、新宿線ができ、大江戸線が開通した。
 近くにある唐辛子や刷毛の店が、時々下町歩きの雑誌に登場する。
 交通の便がよくなってマンションが建ち人がふえて、新しい知らない客が来るようになった。共稼ぎが多く、平日は品が揃っている所へ行ってしまうが、休みの日は専門店に顔を見せてくれる。
 斎藤さんは3年間の修行時代も営業しかしていない。肉の技術に関してはドシロウトだと言う。
 「骨をぬくとか、肉を切ることを、きちんと教わっていないから、先輩にはお小言をくらう」
 ただ逆にシロウトが買いたいものを作れる。固定観念にとらわれない、お客様の立場に立った商売ができる。
 ウインドウの飾り方、肉の切り方、フライの揚げ方。個々のお客様の望むようにしている。

青年部の重鎮

近くを流れる隅田川

 組合の青年部では副部長。本所支部の副支部長・会計部長を担う。
 昭和32年8月生まれの47歳。法学部を卒業して弁も達者。布川勝一部長、粕川隆副部長と共に青年部を支える。
 「近藤正之さん(田無支部)、雨宮寛宏さん(池袋支部)と3人で敬老会」
 と笑う。もう少し青年部の行く末を見届ける。
 本所支部は最盛期70店舗あったが、今は24店舗に。
 「会計になって3年でも5軒減った」
 墨田区の商店街活性化事業に参加。墨田まつりにも組合の向島支部と合同で店を出した。
 斎藤さんは今でも豚の脂をしぼって自家製のラードを作っている。精製しきれずに薄茶色をしているが、それを使ったチャーハン・ギョウザ・ヤキソバはコクがありおいしい。
 昔のものでも、いいものは残し、新しいものを創意工夫しながら「肉のさいとう」はきょうも元気に朝早くに開店する。


    〔2004年(平成16年)12月15日号「東京食肉新報」掲載〕

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