おいしくお肉を食べようよ！東京都食肉事業協同組合のお知らせ『』

2023/2/15

保養所から焼肉店「海牛」へ
コロナ禍と地域の声が後押し
㈱オクヨシ（目黒支部）

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玄関に入るとオクヨシのロゴが目に飛び込んでくる。芹田孝司さんを中央に山見博之さんと舞衣子さん

　神奈川県横須賀市の西側の海岸通りを行くバスの車窓は、眼前に大海原が広がる。都会の喧噪を忘れさせるのどかな秋谷のバス停を降りると、そこは漁業が盛んな集落。気にしていないと通り過ぎてしまうような細道に入ると、住宅に囲まれた中にポツンとおしゃれな一軒家。「海牛」の看板を掲げるその家屋の中で待つのは、芹田孝司さん（目黒支部・㈱オクヨシ）。実は、同社が昨年10月にオープンした焼肉店である。

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　店舗は、南国をイメージしたデザイン。靴を脱いで入る入り口の玄関は、まるで実家か親戚の家に帰ってきたかのような空間。中に入ると、焼肉用のグリルを備えた４つのテーブルが。南の島を連想させる内装とＢＧＭに包まれながら、大きな窓から入る明るい日差しが注ぎ、それでいて家庭のリビングを思わせる空間が心地良い。

　お店は昨年10月からスタート。その前は、同社の保養所だった。「海と言えばここ」と、芹田さんは温暖でゆったりと時間が流れるこの地を気に入り、長年にわたり足を運んでいた。10年前に社員が家族と楽しめるようにと、保養所を構えた。

　しかし、コロナ禍で外出が制限されると、保養所の利用は減少。そのままでいるよりはと、焼肉店へ改装した。それは、地域からの要請でもあった。周辺は逗子や葉山など別荘地として知られる地域でありながら、店舗がある秋谷には飲食店が少なく、焼肉店はない。長い交流のある地域の別荘族から、以前から焼肉店をとの声が芹田さんへ何度もあった。コロナ禍は外食産業に苦戦を強いてきたが、ここでは背中を押すような作用をした。

　オープンは口コミで広がり、チラシなどの宣伝はしなかった。それでも、上々の滑り出しで隠れた人気店に。週末前後になると、別荘族が連日来店する。常連客が中心で、中には芹田さんも驚くような有名人も訪れるという。都心の有名焼肉店に通う舌の肥えた常連客も多く、他店よりも美味しいと十分に満足させている。

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　お弁当も好調だ。牛肉の美味しさを生かした料理を詰めたお弁当は、漁師や地域住民、病院などへ浸透し始めている。店名の「うみうし」という響きも、漁師には馴染みがあって印象に残るようだ。

　お店を切り盛りしているのは、山見浩之さん・舞衣子さん夫婦。平日は二人だけで運営し、満席の時は手が足りないほど多忙となる。それを理解してくれるらしく、「お客さんがお皿を片付けてくれたりと、お客さんにお店を回してもらっているような状態です。温かい方が多いので助かっています」と舞衣子さんは笑う。

ローストビーフ

　メニュー表を手にした芹田さんが、お店の魅力が詰まった数々の料理を注文すると、はじめにキムチの盛り合わせが。一緒に用意された、牛の形をした箸置きがかわいらしい。上質さを演出するような、きれいに咲いた花のように盛り付けられたローストビーフは、イチボを使用。ほどよいサシがトロリとした卵の黄身とマッチする。

クラムチャウダー

　クラムチャウダーは牛肉の挽肉を具にしてあり、寒い日にはホッとする温もりが。サラダは地元の野菜とシラスで彩る。

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　分厚くカットした牛タンをグリルに乗せると、小気味よく脂が弾ける音が。厚みがあるのでザックリとしながらも柔らかい歯ごたえが快感だ。

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　メインの焼肉は、舟盛りで登場。海の近くであることからの演出で、さらに漆塗りの舟の器は横須賀の浦賀に来たペリーの黒船にちなんでいる。

今回の舟盛りには、イチボ、カメノコ、シンシン、三角バラ、友三角の５種。芹田さんが慣れた手付きでトングを操り、絶妙の焼き加減に。塩とタレがあるが、塩の方があっさりとして素材の味が引き立つ。また、各部位の違いを楽しめる演出は、美味しさも倍増するかのようだ。

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　続いての舟盛りはホルモン。レバー、マルチョウなど７種があり、ミノは芹田さんのお勧め。どれも牛肉の美味しさが前面に出ており、バラエティの豊富さに食も会話も進む。提供する牛肉は特に産地を決めず、その時に最高の物を用意している。

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　締めには、唐辛子の辛さとそぼろ煮の甘さが複雑に絡むスープで仕上げたラーメン。美味しいものを食べた幸福感と、ほどよい満腹感で満たされた気分になる。

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食後に胃が重くならない味付けにと配慮している

　こうしたメニューは、社員とともにアイデアを出し合いながら考えた。オープン前には様々な焼肉店を食べ歩いて熟慮を重ね、特に肉質と味には注目した。様々に出された料理のアイデアを決めたのは、芹田さんの味覚。コース料理のような組み立てもできるメニューがそろっており、何よりも味を重視してある。精肉店だから良い肉をそろえた、という単純な考えの焼肉ではない情熱が味に備わっているかのようだ。

　「食べ終わって、重くならないでしょ」

　芹田さんの言葉で、ふと気付いた。サシが入った牛肉を食べたあとは少し胃が重く感じることがあるが、それがなく不思議な感覚に。「そのように味付けしてあるから」との言葉通りサッパリとしているので、次の日も焼肉を食べられそうだ。

　別荘族の常連客は、３～４日連続で来店することも。食後に同じような感想を持てば、また明日も、その次の日も、というようになる。もちろん常連客は、「有名店より美味しい」という満足感で何度も通ってきている。

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ウッドデッキからの眺め。この日は雲が出ていたが、富士山が目の前にそびえる

　店舗の庭にあるウッドデッキの展望台に登った。集落を手前に、相模灘が広がり、天気が良ければ富士山を望める。食肉業界に限らず様々な困難が多い昨今、この雄大な景色のように前途が開けていくようにと、思いを馳せる。少し冷たい潮風も優しく感じた。

【「東京食肉新報」2023年（令和５年）２月号掲載】

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