東急蒲田駅を発車した電車の音が聞こえてくるほど駅に近い位置にお店はあります。住宅街の中に溶け込むように建つ小売店で、見た目は特別な雰囲気は感じられないかもしれません。しかし、店先に立つと、すぐに違いに気づきます。

　山積みになっているのは海外の食材や調味料。ビーフンは馴染みがありますが、そのほかは初めて見るものばかり。中国、台湾、フィリピン、タイ、南米方面のものだそうで、それぞれの国のお肉料理に合わせて必要な食材がそろっています。どのような料理になるか想像つきませんが、派手なカラーのパッケージからスパイシーな味に作られるのでしょうか。

 ショーケースの上には外国語表記の品書きが

　中に入ると、さらに驚き。お肉の種類の豊富さはもちろんですが、注目はショーケースの上。どこの国の言葉で、どのような商品を意味しているのか分かりませんが、来店する外国人の方々が分かりやすいように、現地語で表記されています。この空間にはインターナショナルなお肉の世界が存在しているようです。

　このショーケースの横を見ると、価格表と思われるものが。「ＰＯＲＫ（ポーク）」「ＣＨＩＣＫＥＮ（チキン）」くらいなら何とか読めます。他は何のことやら。なぜこのような表記のものが必要なのでしょう。

　「蒲田の工場で働く外国人の方が、お国の料理を作りたいと買いに来るんです」とは、小山正人社長。

　なるほど、それで外国語表記のリストなどがあったわけです。遠く祖国を離れた外国人の方々にとっては、故郷の味は忘れられないもの。しかし、日本のスーパーなどには、それを再現できるお肉が売っていない。そこで、お肉ならば何でもそろう同店が、こうしたニーズに応えていったところ、次第に口コミで評判になっていったそうです。

　豚の軟骨を煮たり、炒め物にしたり。骨付き肉で焼き肉にしたり、さらにスープにしたり。お肉のおいしさは世界中で様々な形で表されるようです。

　お肉が手に入れば、関連する食材が、調味料が、とニーズが次第に高まり、「今では外国の調味料のほうが日本のものよりスペースを取っているかも」と小山社長は笑います。店頭の海外の食材と調味料は、こうした経緯があったようです。

　さて、お肉はどのようなものがあるのでしょうか。ショーケースには牛・豚・鶏がお手頃価格でそろっています。

　牛肉は国産和牛がステーキ用に、しゃぶしゃぶ用に。様々な料理に使えるよう種類は多彩。国産和牛は、ブランドよりも仕入れ時に上質なものを競り落とすため、品質の割には良心的な価格です。

　輸入牛もあり、最近の赤身志向のニーズを捉えた感がうかがわれます。レバーやスジなど、ちょっと凝った料理にも使えるものがあり、料理好きな方には重宝しそうな品ぞろえです。

　豚肉は小間切れ、生姜焼き用などが。それだけでなく、カシラ、ハラミ、タンなど、お肉屋さんだからそろう希少部位が手軽に入手できるのです。

　注目したいのはここから。まずは、豚足が袋詰めでゴロゴロと。ブラジル産の鶏もも肉が２㎏入りでドーンと鎮座しています。このほか、バーベキューなどで使えそうなスペアリブや、豚の背骨の骨付き肉（ちょっと見た目がリアルなので写真は割愛）なども。

　海外では骨付き肉のおいしさを生かした料理が多く、骨の周りに付いた肉を焼いたり煮たりするだけでなく、骨からスープを取ったりと、調理法の幅が広いので骨付き肉は人気商品の一つ。最近では、日本でも骨付き肉のおいしさに注目され、一般消費者の間でも需要が高まっているようです。

　焼き肉好きの方は、これを見たらウズウズしてくるかもしれません。袋に入ってゴロゴロとしたもの。見た目ではわからなくても、値札に書かれている名前を見たらわかると思います。牛と豚の内臓肉が種類豊富にそろっているではありませんか！

　モツのボイルはもちろん、大腸、小腸、豚皮、豚耳など、お肉屋さんだからこそ手に入る内臓肉が、これでもかと言わんばかりにそろっています。焼き肉にしても、煮物にしても、これだけの種類があれば、料理の品数は数十種、いや数百種にはなるかもしれません。実際に、内臓肉を探して同店にたどり着いたという一般消費者も多く、仕入れのために種類や品質を吟味するため視察に来る飲食店の方も。

　実は、昭和40年代に起きた焼き肉ブームの際、時代の波を読んで精肉に加えて内臓肉に力を入れました。まだ他店が内臓肉に注目する前のことだったので一気に評判になり、当時から現在まで、幅広い顧客から「内臓肉と言えばここ」と言われるくらいの存在に。

　上質なお肉から入手困難な希少部位までそろい、まるでお肉の宝箱のようなお店。「美味しいお肉が食べたい」「安くて上質なお肉が欲しい」「珍しいお肉を取り寄せたい」など、お肉への満足感が止まらない、店内を覗いているだけでも楽しくなること請け合いです。


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