おいしくお肉を食べようよ！東京都食肉事業協同組合のお知らせ『』

2021/2/15

幾多の時代の波濤を超えて　㈱石橋(千代田支部)

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明治12年から続くすき焼き店「いし橋」の暖簾を守る5代目・石橋伸介さん。すぐ横は明治5年創業の精肉店

　明治５年創業の「石橋牛肉店」に併設される形で明治12年開業したすき焼き店「いし橋」。文明開化の中で食文化も新風が吹いた時代からの歴史を持つ老舗を切り盛りするのは㈱石橋の５代目・石橋伸介さんだ。東京大空襲で焼失し、昭和25年に元のままに再建した意匠が凝らされた日本家屋のお店では、仲居が鉄鍋を使った熟練の技によるすき焼きで国内外のお客を満足させる。

　石橋さんが後継の道を選んだ時も、時代は大きな変化を迎えていた。バブル経済で活気に満ちている時期に大学を卒業。家業を継ぐ決意に喜ぶであろうと想像した父は、そうであるなら「京都へ〝丁稚奉公〟をしなければ継がせない」と。それに違和感を持ったため、一般企業への就職を選んだ。

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鉄鍋は手入れをして数十年にわたり使い込んでいる

　当時は会社の接待などで、多くのお客が来店。気軽に上質なすき焼きが楽しめると、部屋はいつも満室だった。しかし、バブル崩壊で苦境へ。牛肉をはじめ食材を用意しながらも、来店客がなければ廃棄に。赤字の月が続き、祖母がお店をたたもうと秘かに閉店案内のハガキを用意していた。

　それをたまたま目にした石橋さんは、自分という後継者がいながらにしての閉店を思いとどまるよう説得。お店の暖簾を一度下ろせば、再開しても「明治12年創業」とは言えない。「やりたいなら、残しておく」となったものの、その条件は勤めている会社をすぐに退職してから継ぐこと。平成７年、26歳で迫られた決断だった。

　家業に入った時期は、まさにピンチの時。バブル崩壊後、周辺はオフィスビルが多くなる代わりに地域住民が減少したため、小売りが不調に。お店の柱である卸業は、ホテルや結婚式場、社食などで展開していたが、見積もりで大手業者の価格攻勢に押されていった。

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グルメサイトからも高い評価を得ている

　転機は不思議な姿をして舞い込んだ。名刺交換ではなく首から下げたネームタグを見せてあいさつすると、すき焼き店の概要を聞き、店内の写真をコンパクトカメラで撮影。ミシュランガイドの調査員だった。そして２０１０年版に１つ星で掲載され、風情のある日本家屋で上質なすき焼きが食べられると国内外で評判となり、なかなか予約が取れないほどの人気店となった。

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戦前の精肉店の写真

　閉店一歩手前からの復活劇に、何か工夫があったのか。「何もしなかった、というのが正しい」と石橋さん。昔からある一定の質を維持していれば、多少の浮き沈みがあっても、いつかは評価されると信じてきた。しかし、ニーズに合わせて変えてきたこともある。その代表例が、締めのおじやだ。

　本来はメニューになかったが、祖母の時代にお客が裏メニューとして注文。やがて常連の間で定番となり、マスコミで紹介されてから一気に広まった。今ではすき焼きと並ぶ名物で、お店の評判を高める一助となった。

　また、すき焼き用の肉も見直した。以前は松阪牛、近江牛を一頭買いしていたが、ブランドにこだわらず、様々な産地の最高の牛肉に注目してパーツで仕入れた。サシが入った柔らかいサーロインを提供しており、それが現代人の好みに合ったようだ。

　インバウンドも追い風になった。すき焼きとともに、日本家屋の体験を目的とした外国人観光客が訪れる。旅行会社と連携し、料理のメニューとコースの進行を打ち合わせしてあるので、英語が話せなくても料理が楽しめる体制にしてある。

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明治時代から続く看板を守り、今日も暖簾を掲げる

　しかし、現在はコロナ禍でお店の予約状況は落ち着きを見せている。稼働している部屋は６室で、ゆとりある広さの部屋に１組１室。夫婦や家族連れなど２～４人が斜向かいにして距離を取りながら着席し、お客は回転させない。食事が終わった部屋は、その日の使用は終了となる。従来の接客方法がそのままコロナ対策になっており、お店の環境を知っているお客は安心して来店できたようだ。

　さらに、グルメサイトで通信販売も。本物の竹皮を使った高級感のある箱に詰めたすき焼きセットは、「おうち時間」を過ごす人気アイテムに。

　変化が著しい時代だが、石橋さんの今後の展望は「現状維持」。「江戸っ子気質なんでしょう。お金で買えないもの、名誉を重んじます」と、地道な取り組みがお客の信頼と、ミシュランやグルメサイト、マスコミからの応援につながっていることに確信を持つ。

　決してコロナ禍にある現状を楽観してはいないが、「閉店直前の経験があるから、あの頃を思えばマシかな」。

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